AIイラストは脅威なのか?

コラム的覚書

ここ数日AIイラスト生成の話題がTLを賑わせている。
えちちイラスト収集アカにAIがーとか、倫理観がーとかの話題がひたすら乗ってくるのは正直辛いところがあるんだけれど、かといってこの技術革新が(AI学習の倫理観とか、下地にされた気持ち悪さとかは一旦置いておいて)不可逆なモノであるのは間違いない。

というわけで、そろそろボクもAIイラストについて自身の考えを整理しておこうと思ってこの記事を書いている。

これからの未来はこうなる! みたいな内容ではないけれど、エロ同人屋としてこの技術とどう向き合っていこうかというのは一つの課題ではあるので、ボクなりに色々と考えを巡らせてみた次第だ。
(なお、ここではAI学習の可否とかそういうのについては触れない。あくまでAI画像生成という技術をどう捉えようかという話である)

AIはイラストレーターの仕事を奪うのか?

さて、AI関連でよく聞かれるのが「AIが台頭すると仕事がなくなる!」というやつである。
これに関してはまあ、そういう面もあるにはあるだろうけど、ないと言えばないと言えるのでは? というのが正直な感想だ。

というのも、写真が出たからといって絵画絵師がなくなったわけではないし、動画が主流になったからといって写真家がいなくなったわけでもないしで、AI画像生成が普通になった世界においても別にイラストレーターは存在しているだろうというのは簡単に予測できる。
だから仕事そのものは無くならないとは思うんだけど、かといって、じゃあ今いる人達全員分の受け皿がありますか? と問われると、まあそれはない。

とはいえその場合考え得るのは、〝別の名前の仕事〟が出来ていてそっちにシフトしているだろうなというコトで、要はプロンプト職人とかそういう感じの仕事ができているだけのように思う。
そこに対して適応するのか、だから全く別の道を選ぶのかは人によると思うけれど。

それに厳しいコトを言えば、現状のAI生成レベルのイラストで影響を受ける程度であればそもそもお小遣い稼ぎにはなっても食べていくには心許ないんじゃないかな? と思うのだ。
後述するけど現状のAIが生成するイラストというのは凡庸で、今のところそのイラストに対してお金を払うだけの価値をボクは見いだせていない。
元より変わりが効くレベルの段階の話なんだから、技術革新で淘汰されるのは自然の流れとも思える。

実際こんなコトは様々な領域で日々起きていて、例えば電気自動車の登場で内燃機関向けにパーツを卸していた企業は軒並み影響を受けているし、例えば有機ELの登場で液晶メーカーは大打撃を受けた。
こんな感じで、ある分野において〝替えが効かない〟レベルの技術を持っていてすら時代の流れや技術革新で衰退してゆくものなのだから、「AIイラスト生成の登場でイラストレーターが打撃を受ける」というのもまた当然と言えば当然で、そこに対してあーだこーだ言っても仕方ないというか、対応していくしかないというのが実情だと思うのだ。

というわけで一つ目の結論。
AIは仕事を奪うだろうけど、その分別の仕事が生まれる。多分。

AIイラストは心に響くのか?

さて、最近TLでよく見る「AIでこんなの描けました!」的なイラストをほけーっと見ていて気付いたコトがある。
それは、いくら流れてくるイラストを見ても何も感情が想起されないというコト。

なんでなんだろーなー、と思ってたんだけど、一つの結論としては〝丸い〟からじゃないかな? と。

この〝丸い〟というのは絵柄の話ではなくて、〝個性がない〟という意味での〝丸い〟だ。
具体的に言えば、AIは何万、何十万、何億……といったイラストを学習して生成しているから、出来上がるのは必然的にそれらの要素の平均値になる。
そしてそれは創作において「やるな」と言われてるコトそのものだ。

例えば、さいとうなおき先生は三ヶ月上達法とかで「誰か一人をお手本にして徹底的にマネしろ」と言っているけれど、この〝誰か一人〟の意味の一つに「(ベースが未熟な状態で)色々な人を参考にするといいものを組み合わせているつもりでちぐはぐになる」という趣旨のコトを仰っている。
あるいは例えば、物語の登場人物を全員〝主人公〟にしてしまうとフォーカスが絞られず、結果的に誰が主人公なのか分からないという結果を招くというのも同じ文脈だ。
いずれにせよ、ある一つの作品の中で重心を作るというのは創作においての基本であって、その重心がはっきりしてかつ共感を呼び起こした時に心に響く。

翻って、AIはうん百万とかうん億というレベルで画像収集をしているのだから、一つ一つの作品にある〝重心〟は誤差として丸め込まれ、結果的に出来上がったものの〝重心〟はど真ん中にあって「上手いなぁ」とか「キレイな絵だなぁ」くらいは思ってもそれ以上心に響いてこない。
エロの文脈で言えば「キレイだけど抜けない絵」というやつそのものだ。

こういうコトを言うと「mimicみたいに特定の絵師を参考にしたら個性出るやんけ!」とか言う輩が出てきそうだけど、結果は変わらない。
その場合は確かにその作家っぽいイラストにはなるだろうけど、なぜ手の角度がそうなっているのか、なぜそこにその小物があるのか、なぜそういう表情をしているのか、なぜ……、なぜ……、なぜ……という、そのイラストを構築している一つ一つの要素が醸し出す〝重心〟あるいはこの場合だと〝ストーリー〟と呼ばれるものは均一化されて「多くのパターンでこうなってるから、なんとなくそこにそういう要素として配置してある」になる。
だから心に響かない。上手いなぁ、止まりだ。

こう言うとさらに、「将来はそういう部分も含めて指示一つで考えて生成するかもしれないやんけ!」とか言う輩が出そうだけど、そうなったらそもそも影響はイラストレーター云々の話じゃない。
なにせそれは自立思考だ。
そんなものはSFの世界の〝AI〟であって、今の世界にあるAIとは全く別物。
シンギュラリティの先というか、技術的には隔絶されたまた別の領域の話であって、少なくとも今問題にするコトじゃない。

というか、そんな〝AI〟が生まれれば心配しなきゃいけないのは仕事が無くなるというレベルの話ではなく、どうにかしてスカイネット化しないようにするコトだし、もっと言えばマトリックスの世界を防ぐコトでもある。
いやまあさすがにそれは行きすぎとしても、イラストの量産化がー……とか騒ぐレベルの話ではないというのが確かだ。

というわけで二つ目の結論。
AIがディープラーニングを基本として大量のイラストをベースにする以上、心に響くイラストは描けない。

じゃあ結局AIイラストって何に使うんよ?

上で言ってきたように、AIが今無数にいるイラストレーターの母数を減らすのはまあ起きうるだろうけど、そもそもそこで淘汰されるのは心に響くイラストを描けないパターンなのであまり大騒ぎするものでもないかな? というのが今のところの所感だ。

とはいえ、じゃあAIイラストが廃れるのか? というとそんなことはないと思う。

特に今のところすごく使えそうだと思っているのは差分作成で、自分のイラストをベースに色々な表情パターンを作ってくれるというのがあればありがたい。
ついったでもちょろっと呟いたけど、版権絵の堕ち後イラスト(自分で描いたやつ)をベースに堕ち前を描いてくれるとかあったら嬉しい。
当然背景とかも有用だと思う。ほかにも、適当なワードを入れてインスピレーションを得るという使い方も面白そうだ。

あと、イラスト自体にそこまで力がなくてもいいもの――具体的に言えばビジュアルノベル形式のゲームなんかでも強力だろうなと思っている。
というかこの場合だとむしろイラストが没個性な分テキストの重要性が上がって、よりストーリー的に面白い作品が増えるかもしれない。

総じて、絵描きにとってはインスピレーションを得る道具か工程削減以上のモノではないだろうし、絵描き以外にとってはイラストレーターに頼むほどのものではないモノに対してドンドン積極的になれる……といったところだろうか。

ちなみに個人的には「イラストが大量生成されるならもうイラスト描く必要ないやんけ!」って言ってる人達はそもそもイラスト描くモチベーションが〝お絵かき楽しい!〟ではない可能性が高いので、そういう人達の言説を真に受ける必要はないんじゃないかなー……というのが正直なところだ。
伊東ライフ先生くらいどっしり構える……まではできなくても、〝表現したい何か〟のためにペンを走らせている限り、凡庸なイラストしか生成できないAIにできるクリティカルなコトというのはないというスタンスではいたいなと思う。

 

ではでは。
今回はこの辺で。

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